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さてさて本題に戻ろう。 結局電話作戦は中止となった。もうヤダって二人とも音を上げたのだ。 それで終わるかと思ったら、次はファックス作戦が始まった。 かあしゃんがチマチマと「ノルウェージャンの赤ちゃんを探しています...」っていうような内容のお手紙を何通も書いて、ブリーダーさんたちに送ったのだ。 ねえ、それならパソコンでうってプリントした方が早いしきれいじゃない、ってとうしゃんは言ったけど、かあしゃんは譲らなかった。 これは物の売買の問い合わせじゃない、うちの子になる子を探しているのだから、例え汚い字だって心がこもってるのじゃなきゃいけないんだ、というのがその言い分だった。 かあしゃんって、こういうことでは古臭いっていうか、不合理な考え方を平気でする。自己満足に過ぎないのじゃないかなあ、と私は心密かに思っているのだけど。 かあしゃんの「心のこもった」ファックスが功を奏したのか、ようやくちゃんとした応対をしてくれる人から連絡が来た。 この頃には、それまでのちぐはぐな電話での会話から、今まで純血種のねこに全く関心がなかったかあしゃんたちも、純血種のねこには「ショー・タイプ」「ブリーディング・タイプ」「ペット・タイプ」という、ま、一種のランクづけがあることや、あの本でみた子の色は、グレーというのじゃなくてブルーというのだというのもわかってきていた。それでもわからないことは多く、やっと出会った親切なそのブリーダーの人にいろいろ教えてもらっていた。 「ノルウェージャンって、どういう性格の子たちなんですか?本にはこういうふうに書いてありましたけど、実際に一緒に暮らしてらして、どうですか?」こんなこと聞くと笑われないかなあ、と心配しつつ聞いたかあしゃんに、そのブリーダーさんは丁寧に教えてくれて、その上何枚かのノルウェージャンについてのレポートまでファックスしてくれた。 それまでの経緯で、もうヨロヨロになっていたかあしゃんたちは、初めて優しくしてもらったことに感激して、そのブリーダーさんからノルウェージャンの赤ちゃんを譲ってもらおうと決心したのだが、間の悪いことに、ちょうどそのお宅ではそのとき赤ちゃんが生まれていなかった。 当然待つことにしたのだけれど、ここからが長かった。 |
とにかく赤ちゃんねこが生まれない。 かあしゃんととうしゃんは「生まれたら連絡します」というそのブリーダーさんの言葉に従って、黙ってずっと待っていたわけだが、あまりにも連絡がないので、何回かはファックスをしてたと思う。そのたびに答えはいつも同じ、「すみません、まだ生まれないんです」だった。 (ははーん、私が赤ちゃんねこなんていらないって思ってるから、その気持ちが天に通じてるんだ!) 私は密かにほくそ笑んでいた。 それでも、かあしゃんたちはいつもの諦めの良さに似ず、今回はずっと待っていた。あまりにもずっと待っていたためか、そのブリーダーさんはとうとうお友だちのブリーダーの人を紹介してくれた。 少し場所が遠かったのと、また知らない人と最初からお話しなければならないことにプレッシャーを感じたかあしゃんが渋ったため、その人と連絡をとったのは、それからなんと1ヶ月も後のこと。 (そうやってグズグズしてる間に、今いる赤ちゃんねこたちはいなくなっちゃうことになってるんだよ!) ところが、今度ばかりは私の念力も通じなかった。 赤ちゃんねこがいたのだ。しかも2匹も。 この辺の経緯は、ノンちゃんのお部屋でかあしゃん本人が語ってるようなので割愛するが、それまでのダラダラ・のんびりしたペースとは一変して、実に慌ただしくノンちゃんが来ることに決まり、実際いきなりやって来た。 なんだかんだと言っても、結局赤ちゃんねこなんて来ることはないだろうと高を括っていた私にとっては、まさに晴天の霹靂というものだった。 |
その日、かあしゃんととうしゃんは朝からそわそわしており、二人で私のキャリーバッグを持って出かけていった。 まだ秋になったばかりの、暑いお休みの日だった。 東京駅でノンちゃんを受け取ることになっていたようだが、私が思っていたよりはずっとずっと早く帰ってきた。どうやら奪うようにして連れてきたらしい。 家につくとすぐにあけられたキャリーバッグから、まだ赤ちゃんだったノンちゃんが出てきた気配がした。朝から胸騒ぎがしていた私は、奥の部屋で様子をうかがっていて、私を呼ぶかあしゃんのもとへ行こうとしなかったのだ。 そのうち、「キュー」とか「キー」とか「ミー」とか、とにかく赤ちゃんくさい声が聞こえてきた。甘ったるいかあしゃんととうしゃんの声も。 やがて、私の大好きだったアルミフォイルのボールをころがす音と、パタパタッとそれを追って走る音が加わった。 私の家で、この私とかあしゃんととうしゃんだけの家で、見知らぬ赤ちゃんねこが楽しそうに遊んでる! 私のかあしゃんととうしゃんが、うんと優しい声で話しかけてる! その子が私を見つけて、甘えた声を出して走り寄ろうとしたとき、私の怒りは爆発した。 「あんた、なによ!ここでなにしてんのよ!出ていきなさいよ!ここは私の家よ!!!!」 思いっきり怒鳴って脅かしてやったのに、その子は出ていくどころか「えー、なんでおこるの?」ってきょとんとした顔をしただけで怖がりもせず、どんどん家の中を探検し始めた。 「たびちゃん、そんなに怒らないで。たびちゃんの弟のノルタくんだよ。仲良くしてよ」困ったようなおもねるようなかあしゃんの顔と声に、私の頭の中は絶望と混乱で真っ白になった。 |
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