ねこのあな


― 森のねこのたわごと ―


だからこんなに安い?!(またまた北欧ねこ三昧珍道中記 6)

翌朝は、朝ごはんをいただいて優しいホテルのおばあちゃんたちに別れの挨拶をした後、ブリーダーさんの車でフェリー乗り場に連れて行ってもらいました。ここからフェリーでオスロに行くのです。
小雨まじりで風も強かった前日とは違いとてもいいお天気で、気持ちよくデンマークを後にしました。

フェリーはとても大きくて、客室もたくさんあります。乗ったお客さんたちは、どんどん自分たちの客室へ入って行きますが、私たちのチケットには客室がどこかなんて書いてありません。
みんながインフォメーションカウンターのお姉さんに客室を確認しているようなので、私たちも並んでみましたが「あ、あなたたちは客室予約してないので、お部屋はありませんね」とにべもなく言われてしまいました。
このフェリーに乗るには前もって予約が必要で、ブリーダーさんがそれをしてくださったのですが、その乗船料のあまりの安さにはびっくりしていました。なるほど、乗船するだけならものすごく安いわけだったのです。
未練がましく客室を覗いたら、小さなビジネスホテルのような部屋に小さなベッドが並んでいる清潔そうな部屋でした。1部屋だけでも取っておいたら、なにかと便利だったね、と残念がりましたが、しかたありません。とにかくこんなに安い費用で移動できるわけですから、贅沢は言えません。

しかたないので、落ち着ける場所を探しましたが、よさそうな場所は私たちのようなビンボー旅行者(これがけっこういたんですね)がさっさとキープしてしまい、なかなか見つかりません。ようやく大きなソファにあいているスペースを確保して腰を落ち着けた後、順番にフェリー見学をしました。

エレベータを使って移動するほど階数があり、中にはディスコもあります。窓側の通路にはずらっとスロットマシンが並んでいて、大勢の人が遊んでいました。このスロットマシン、本当のコインを入れて遊ぶもので、おこづかいを渡された子供がいっぱいいました。また、中にはずーっと必死にやっている大人もいて、ひと事ながら心配になってしまうほどでした。

外国へ渡る船ですから、免税店もあります。売られているものはお菓子やおもちゃの他は大半がお酒と煙草で、みんな驚くほどたくさん買っていくのです。
私たちがキープした席はこの免税店の近くでしたから、船に乗っている間中大勢の人がお酒をどっさり買っていくのを目撃しました。北欧は税金が高いので、免税店での買い物は貴重な愉しみなんでしょうね。

デッキに出てみると、小さな子供から老夫婦まで、とにかくカップルだらけ。確かに風景はすごくきれいで、特にオスロが近くなると、左右におもちゃのようなかわいらしい家が見えてきたりして、まるで絵葉書のようで、ムードたっぷりです。女同士もいいもんだよね、見える景色に違いはないよねえ、というのは、やっぱり私たちの負け惜しみでした。寒いわ、それなのに回りは熱々だわで、早々に引き上げました。

ところで、船に乗る前から船酔いの心配をしていたあきさんは、酔い止めの薬のおかげと、思ったより船が揺れなかったため大丈夫だったのですが、そんなこと気にしていなかった今泉さんが船酔いしてしまい、疲れが出たのだろうと、ソファでしばらく眠っていました。
それから、お腹が空いてるのもいけないだろうと、キャフェテリアで買ってきたサンドイッチなどを一緒に食べました。その頃にはあきさんにもらって飲んだ酔い止めも効いてきて、かなり元気回復しました。
その間とても役立ったのがお茶でした。日本と違って、自販機ではお茶やコーヒーが売られていません。ほとんどが炭酸系の甘い飲み物ばかりでしたが、船酔いして気分が悪いときには、そういう清涼飲料水でなく、さっぱりしたお茶がほしいものです。朝ホテルを出る前に、ふと思いついた今泉さんが、オーナーのおばあちゃんに頼んで、持っていたペットボトルにお茶をつめてもらっていたのです。今泉さんはおばあちゃんに感謝しつつこのお茶をとても大事に飲んでいました。
おかげで、夕方オスロに着く頃には全員元気いっぱいで行動できました。
おばあちゃん、どうもありがとう!

フェリー乗り場からホテルまでは近距離のはずでしたが、時間も遅くなっていたし荷物もありましたから、タクシーを使いました。
部屋は3階と4階、スモーカーとノンスモーカーで分かれることにしました。このホテルは以前にもノルウェーに来たときには使っていて、おなじみです。オスロには3泊4日、ここを拠点にキャットショーへ行ったり、知り合いのブリーダーさんのところへ行ったりする予定です。
着いた日は、ホテル近くのコンビニエンスストアでピザやスナックなどを買ってきてみんなでわいわい食べた後、眠ることにしたのですが、深夜外のうるさいこと。ホテルの向いに以前はなかったクラブができていて、ここの音楽がそれはうるさいのです。金曜の夜だからかなあ、と思ったのですが、日曜である最後の夜までおさまりませんでした。
うーん、今回の旅行では、席がない上にちゃんと眠れない運命だったのかも。(笑)

2002年1月10日

ノルウェーでお醤油?!(またまた北欧ねこ三昧珍道中記 7)

オスロ2日めは、朝からどんより曇っていました。
みんなで朝ごはんを食べた後、今にも雨が落ちてきそうな空の下、駅まで行くことにしました。両替と、オスロからスウェーデンのヨーデボリまでの切符を買うためです。
前に行ったときに改装中だったオスロ駅は、すっかりきれいに近代的になっていました。あまりにもおしゃれになっていて、ちょっとつまんないと思ったくらい。

それから、ホテルの近くの写真屋さんに行きました。せっかく撮った写真がだめになるといやだから、と今泉さんは毎回現地でできるだけ現像するのです。
ここで、私たちは小柄なすてきな初老の女性から声をかけられてびっくりしました。ホテルで落ち合うはずだった、ノルウェーのブリーダーさんではりませんか。まあ、なんと言う偶然!と思ったのは勘違いで、駅から歩いているときに、私たちの姿をみつけて、この写真屋さんに入っただけだったそうです。(笑)
このブリーダーさん・ランディさんには、前に来たときにもとてもお世話になりました。今泉さんが最初にノルウェーに来たときからの知り合いで、古くからノルウェージャンのブリードをなさっている方です。一緒にオスロでのキャット・ショーに行く予定なのです。
電車に乗ってショー会場に着く頃になっても、空は暗く寒いままで、時折小雨も落ちていました。

今回のショーは、小さなクラブ主催のもので、前回のスウェーデンでのものとくらべると非常に小規模でした。会場は体育館のような建物です。
ここでも、またブリーダーさんが待っていました。こちらも、以前からとてもお世話になっているビョルンさんとその奥さまです。再会を喜び、みんなでねこたちを眺めながら、ここで初めて会う予定のブリーダーさん・マリアンヌさんを探しました。
マリアンヌさんはスウェーデンの方ですが、はるばるこのショーに来ると言うので、こちらで落ち合うことにしていたのです。
マリアンヌさんにも無事会い、彼女のねこたちにも会い、しばらくショーを見学してから、私たちとランディさん、ビョルンさんたちは会場を後にし、ランディさんのお宅へ向かいました。

ランディさんのお宅はオスロ近くのマンションの一室で、とてもたくさんのねこグッズやロゼット(ショーのご褒美)が所狭しと飾られています。ここにはうちのめるとのおばあちゃま、ジャスミンちゃんがいて、私たちを大歓迎してくれました。
ランディさんのだんなさまにうちの子たちの写真を見せたところ、めるとの写真をみつけて「おおっ、この子はジャスミンの色違いみたいじゃないか!」と驚くので「だって、ジャスミンちゃんの孫ですもの」とお教えしたら、大受けでした。
ジャスミンちゃんはブラウン・トービー、めるとはシルバー・トービーで、顔の雰囲気など、やっぱりとても似ているのです。
もうおばあちゃんなのに、コロコロと人なつっこく遊ぶジャスミンちゃんはたいそうかわいらしく、めるとに会いたいなあ、と思いました。

それから、みんなでおいしいお夕飯をいただいて、ノルウェージャン話で盛り上がりました。デンマークでもそうでしたが、こちらでも気を使ってくださって、ライスが添えられています。このライス、「ジャスミン」という銘柄なんだそうです。それに、お醤油までありました。「あなたたちには、日本の調味料がいいと思ったのよ」と、前日に買ってきてくださったのだそうでした。見なれたキッコーマンのお醤油さしが異国のテーブルに乗ってるのは、なかなか楽しい風景でした。それに、サーモンにちょっぴりつけて食べると、やっぱり美味しくて、みんなでモリモリ食べてしまいました。

ノルウェージャン話は大いに盛り上がり、デザートのケーキの頃には「ノルウェージャンの歴史」やら「いかに彼らを守っていくか」について激論が交わされていました。前回もこういう展開になったよね、とこっそり話す今泉さんと私。そうなんです、彼らはノルウェージャンを自国の文化と考え、とても大事に思っていて、ノルウェージャンについて語りはじめると止まらないんです。
それから、古い本を何冊も見せていただいたり、昔のノルウェージャンの話を教えていただいたりしました。おいしいごはんをいただきながら、ほんとに興味深いためになるお話をいくつも聞けて、とても幸せな一時でした。

やがてホテルに帰る時間になり、私たちはたっぷり別れを惜しんでからランディさんのお宅をおいとましました。「また会いましょうね」の言葉に、ほんとにまたお会いしたいなと思いながら。

ホテルに帰ってからも不思議な興奮状態は続き、みんなでホテルのキャフェテリアでコーヒーを飲みながらおしゃべりしました。
それから、折り紙をたくさん折りました。今泉さんがお土産に、と折ってきた折り紙がショー会場でたいへん好評だったので、もっと折ろうということになったのです。
こうして、オスロでの2日めはとても楽しく終わりました。

私たちはそれぞれの部屋にもどり、シャワーを浴び、ベッドに入りました。
土曜日の夜で、ホテルの向かい側のクラブからはドンジャカ派手な音は聞こえるし、ホテルの別の部屋では若者たちがパーティを開いているようで、開けっぱなしのドアから見える狭い部屋は、食べ物やお酒や煙草を持った人でいっぱいで賑やかでしたが、私たちは疲れと満腹感からすぐに眠ってしまいました。深夜にあんな騒ぎがおきるとはつゆ知らず...。

2002年1月27日

えっ、火事?!(またまた北欧ねこ三昧珍道中記 8)

私はノンタの夢を見ていました。
ノンタが私に向かって一所懸命ないているのです。とても大きな声で。
やがて、その声がいつもの可愛い声でなく、まるでブザーのような声になりました。
「ノンちゃん、どうしたの? お母さんはここにいるよ。それに、どうしてそんなブザーみたいな声でないてるの? ノンちゃん、ノンちゃん。」
夢の中で私は少し距離をおいたところにいるノンタにしきりに話しかけるのですが、ノンタはさらに大きなブザーのような声でなくばかりです。
そのうち、夢の中で(これは夢だ)と気づきました。(それにしても、なんでノンちゃんはこんな声でないているのだろう)とぼーっと考えていましたが、徐々に暖かく薄ぼんやりした心地よさが消えていき、(あ、これは火災報知器の音だ)とわかるようになりました。
(あれ、火事かな、でも静かだし、間違いかも。でも、火事かもしれないし、おきないといけないかな。いや、大変だ、おきなきゃ!!)
この覚醒にかかった時間はごく短いはずですが、夢から現実に戻るにはとてつも長い時間がかかったような気がしました。
私は飛び起きると、同室の京子ちゃんに声をかけました。
「この音って火災報知器だよね?」
「あ、ああ、そうみたいですね」
「とにかく起きた方がいいよ」

窓の外を見ましたが、別段変わったところもないようです。
それから、今度はそっとドアを開けて廊下のようすをのぞきましたが、二人ほど心配顔でロビーへ下りて行く人がいただけで、変なにおいもしません。
でも、そのうちサイレンの音が聞こえてきて、消防車がホテルの前に停まるではありませんか。
とにかく私もロビーへ行って事情を確認することに決めて、パジャマの上に上着を羽織り靴を履きました。
貴重品の入ったバッグに、枕元に置いてあったコンタクトレンズとうちの子たちの写真を入れ、まだ寝ぼけぎみの京子ちゃんにも貴重品をまとめておくよう言って部屋を出ました。
もし、ただのボヤでも混乱があると困るので、パスポートと帰りのエアチケットだけは確保しておかなければなりません。それから、私の場合はコンタクトレンズ。これが私の文字どおりの目です。極度の乱視のため、眼鏡では足下が歪んでしまって歩くのも難しく、度の甘いものしか使えないのです。
その、あまりよく見えない眼鏡をかけ、ロビーへ続く階段を降りていきました。

明るい廊下も階段も、相変わらず激しいブザーが鳴り続けているだけで、他は何ごともないかのようにとても静かです。それはシュールで不思議な情景でした。
(やっぱり間違いかなあ。そうだといいけど。でも、消防車も来てたし...)そう思いながら歩いていくと、ロビー近くで賑やかにはしゃぐ若者の一団とすれ違いました。不謹慎なまでに楽しそうな彼らの様子に、頭の中でピーンとくるものがありました。

ロビーには眠そうな顔をしたパジャマ姿の数人の人がいました。私と同じように心配して降りてきた人たちです。カウンターのホテルマンが他の人にノルウェー語で説明し終わるのを待って、早速質問しました。
「このブザーは火災報知器でしょう? 火事なんですか?」
「いえ、なんでもありません。ただの間違いです」
「でも、消防車も来てるようだけど」
「ホテルの火災報知器が鳴ると、自動的に消防署に連絡がいくようになっているためです。火事じゃありません」
「じゃ、このまま眠ってもだいじょうぶね?」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫ですから」
また質問に降りてきた人に説明するため、そこで私への説明は切り上げられました。

部屋へ戻りながら、この騒ぎですっかり冴えた頭で(やっぱりそうか)と考えていました。
さっきすれ違ったのは別のフロアでパーティをしていた若者たちで、彼らこそがこの火事騒ぎの原因だっただろうということです。
数時間前にちらりと見えた小さな部屋では、大勢の若者が煙草をふかしていて、空気が白く見えるほどでした。あの時にはドアを開けてありましたが、さすがに深夜になり、騒音に対する苦情が出て(あるいは出ることを恐れて)ドアを閉めたために、過剰な煙草の煙りに火災報知器が反応したのでしょう。
やれやれ、と部屋に戻って、心配そうな京子ちゃんに、火事じゃなくて大丈夫だそうだから眠っても平気だよ、と告げました。
「なんだか間違いだったんだって」
「よかった。でも、消防車が増えてますけど」
窓から外を見ると、確かに最初に到着した消防車の他にもう1台来ていて、消防士さんたちが手持ち無沙汰そうにウロウロしています。
京子ちゃんに私の推理を話すと、彼女もあの部屋のことは印象に残っていたようで「ああ」とすぐに納得していました。
そして、この頃、ようやく激しいブザーの音は止みました。消防士さんが火事でないことを確認して止めたのでしょう。

鳴っていた火災報知器が誤報であったことを他の部屋で眠っている今泉さんとあきさんに伝えるべきかどうか迷いましたが、起きて心配していればこの部屋に電話してくるか訪ねてくるはずなので、かえって心配させるかもしれないし、もしかしたら眠っているところを起こしてしまうことになると考え、私たちはまたベッドに入りました。

翌朝は当然のごとく寝不足でした。
朝食の席で今泉さんとあきさんに前夜の騒ぎの話をして「もし寝てたらいけないと思って連絡しなかったんだよ」と言うと「まさかぁ、さすがに起きたよ」と言われました。
でも、もし火事などの緊急事態なら、私が起こしに来るだろうと考えて眠ったのだそうです。おお、すごい信頼! っていうか、それほど信頼していいのか?(笑)

まったく、火事騒ぎで「やれやれ」、火事でなくて「やれやれ」な夜でした。

2002年2月11日


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