ねこのあな


― 森のねこのたわごと ―


こんなに遠い?!(またまた北欧ねこ三昧珍道中記 4)

とにかくコトの次第を二人に話し、みんなで教えられたホームへと向かいました。
確かにそこは駅のプラットホームで、方向もあっているようでしたが、券売機が見当たりません。どこで切符を買えばいいんだろう、と探していると、切符のことを書いた小さな札がありました。
『電車の中でも切符は買えますが、その場合料金は2.5倍になります』
えー、そうなの?
いや、ちゃんと切符を買って乗車したいのは山々なんだけど、どこで買えばいいのさ?

そんなときには誰かに聞け、です。
ホームを見渡して、優しそうな女性をターゲットに選び(こういう人選にかんしては、私、自信あります。なんたって数をこなしてるから(笑))教えてもらうことにしました。
私の目は間違っておらず、彼女はとても親切に、階段を登った先の切符売り場の方まで自分で見に行ってくれてまで教えてくれました。そこに行けば買えるけど、もう遅くて誰もいないこと、こんな時間だし、短い距離なので切符を買わずに乗っても検札もないはずだから大丈夫だろうということ。え、それって無賃乗車のススメ?
いいんでしょうかー、と躊躇する私でしたが、大丈夫よ!と力強く微笑む彼女に、異国での初の無賃乗車を決意したのでした。いえいえ、ちゃんと検札があれば中で買うつもりでしたよ、私A型だし。

ほどなくしてやってきた電車に乗り込み、コペンハーゲン中央駅へ向かいました。私たちの乗った車輌は小さな椅子があるだけのがらんとしたもので、荷物持ちの私たちにはぴったりな感じでした。よく見ると自転車のマークがついていて、「自転車持ち込み可車輌」とでもいうもののようでした。後でブリーダーさんに聞いたところ、デンマークでは車を持つのにとてもお金がかかるから、家族で1台くらいしか持てず、ほとんどの人は自転車で移動するとのことでした。ガソリンもとても高価なのだそうです。きっとすごい税率なんでしょうね。お酒も煙草もものすごく高いですから。

さっき私たちに無賃乗車を薦めてくれた(?)女性は隣の車輌にいましたが、私たちが降りる駅に着く前にやってきて「次で降りるのよ」と教えてくれました。最後まで私たちのことを気にかけてくれて、ありがとう! 私たち、無事無賃乗車しちゃいました。(よい子のみなさんはまねしてはいけませんよ。私たちは「やむを得なかった」んですからね)

コペンハーゲン中央駅はこんな夜中なのにすごくたくさん人がいて、ファスト・フードのお店などもガンガン営業中です。さすが都会です。
ハンバーガーのいい匂いを振り切って、今度はちゃんと切符を買いに窓口へ行きました。
空港のホテル案内の女性が書いてくれた紙を見せ、ほんとうの目的地・フレデリクスハウンまでの切符を買いました。切符を見ると到着時刻は翌朝の6時49分。おおっ、6時間ちょっとで着くよ、8時間はかからないじゃん!と妙な喜び方をして、ブリーダーさんに電話しました。事情はホテルの人から聞いていた彼女から、わかったわ、その時間に迎えに行くからね。今度こそちゃんとおいでね〜、と言われ、双方大笑いしてしまいました。

ホームも人でごったがえしていました。夜中だけど、これだけ人がいるから恐くなくてありがたく思いました。私たちが見るからに外国人旅行者(しかもお上りさん風)なので、空港行きの電車が来たときには、そばにいた男性が「この電車が空港行きだよ、乗らなくていいの?」と教えてくれさえしました。いえ、ちょっと前にそこから来たばかりなんです、と答えるときには、内心(そんでこれから6時間以上もまた電車にのるんです)と付け加えて苦笑してしまいましたけど。
そのうち私たちの乗るはずの電車が来ましたが、どうも行き先表示が違うし、座席の車輌も見つからないし、でも絶対この電車のはずだし、と悩みました。ここで間違うとおおごとなので、必死に確認して歩きました。これほど人がたくさんいるのに、なぜか駅員さんがいなくて、まわりの人も旅行者っぽい人ばかりでわからず困りましたが、結局途中で車輌が切り離されるだろうこと、そのため車輌番号が飛んだり逆になったりしていることがわかり、無事乗車できました。

やっとみつけた指定席へ行くと、デカくてムサい男性が4人でーんと座り、なぜかみんなでバナナを食べています。座席の指定については、飛行機ですでに混乱があり、(座席指定って、あってなきが如きものなのか?)という気持ちになっていたので、空いている席でもいいか、と見回しましたが、4人席全部が空いているところはありません。若い女の子(?)ばかりでの夜行列車ですから、安全のためにもみんなで固まっているべきだし、と思い、オジさんたちに「あの〜、この席は」と切り出すとどいてくれました。
やれやれ、と荷物を置いて落ち着きました。前回のスウェーデン旅行記で書いたX2000の4人掛けの席と同じで、まん中に大きなテーブルがあり、ここに飛行機で出されたけど食べなかったスナックやジュースを並べてくつろぐことができました。

さて。
今回の旅行記を書くにあたって、コペンハーゲンとフレデリクスハウンってどのくらい離れてるんだろう、と調べてみました。
なんと、電車の走行距離にしておよそ420キロ(私の地図での測量による)。東京駅から東海道線にのると関ヶ原に着いてしまいます。東北線で北上すると岩手県に入るくらい。
ひえー。
わかったときには1人で笑い転げてしまいました。間違うにもほどがある...。

昭文社刊『個人旅行30 北欧』より

そんなことは知らない(いや、よく考えればわかりそうなものだけど)そのときの私たちは「ちゃんと電車に乗れてよかったね。電車の中はあったかくていいね(ホームはさすがに寒かった)。6時間以上も乗るのに、電車賃安いね(1人5,000円しなかった)。飛行機の中で食べなかったスナックとか持ってきといて正解だったね(小腹が空いていた)。みんな一緒に座れてよかったね、でもバナナの皮は捨ててほしかったね(さっきまで座ってたオジさんたちが捨てずに行っちゃった)」と、全くあせりもせず、実に明るく楽しくおしゃべりしていました。
いえ、ガイドブックを開いて、この地図も見て場所を確認したことはしたのですが、一目見てすごく遠いことはわかったので、みんなで「遠いね」と言っただけで、ガイドブックをきっぱり閉じ、考えるのをやめたんです。正解でしたね。はは...。

2001年12月10日

こんなに広い?!(またまた北欧ねこ三昧珍道中記 5)

北欧の成人にあわせて作られている電車の座席はとても大きく、小柄な私たちにはゆったり座れるものでしたから、最初のうちはちょっぴりの興奮も手伝っておしゃべりしていた私たちでしたが、そのうち長旅の疲れで眠ってしまいました。
ときどき停車し、そのたびに人が降り、乗ってきました。すごく遠いところへ行くんだな、というのはわかってはいましたから(笑)、漠然と「だんだんみんな降りていって、最後に降りるのは私たちを含めた少人数」と思っていたので、これは意外でした。降りる人より少し少ないくらいの人は乗ってくるので、最後まで電車には大勢の人が乗っていました。

少しずつ空が明るくなり、朝が来る頃、本来の目的地であるフレデリクスハウンに着きました。
駅にはお世話になるブリーダーさんたちが、2台の車で迎えに来てくれていました。無事会えたことを喜びあい、車に分乗して、まず昨夜泊まる予定だったホテルに連れて行ってもらいました。
想像していたとおりの小さなホテルで、1階の一部は家具屋さんのようでした。ホテルの主人であるおばあちゃんとおじいちゃんに紹介され、2時間くらいしたらまた迎えにくるからね、と別れました。

私たちの部屋である2階に案内されて感動し、昨日のうちにここに着いて泊れなかったことを、初めて心から後悔しました。
すごーーーく可愛いお部屋ばかりなのです。
ホテルというより、ペンションといった風情です。
どの部屋にもすてきな家具やライトが置いてあり、ふだんは家具の展示場のように使われているのかもしれない、とも思いました。
優しいおばあちゃんとおじいちゃんが、泊まり客は私たちだけなので、自由に使ってね、ここにはテレビがあって、こうやるとつくよ、と身ぶり手ぶりで教えてくれました。

シャワーを浴びると風邪をひいてしまいそうだったので、それは諦め、顔を洗い着替えてさっぱりしてから、朝ごはんをいただきました。
「ねっ、北欧の朝ごはんはおいしいでしょう?」と北欧が初めてのあきさんと京子ちゃんに自慢できるような(なんで私たちが自慢?)すてきな朝ごはんをゆっくり食べ、この家の大きな黒いねこと遊んでいるうちに、ブリーダーさんが迎えに来てくれました。

またしばらく車に揺られて、ブリーダーさんのお宅へ向かいます。
どんどん家が少なくなり、牛や馬がそこここにいるようになりました。北欧でも田舎ばかりに行って、そういう光景には慣れた私も、これほどたくさんの牛や馬を見るのは初めてです。ましてや、こういった田舎に来るのは初めての京子ちゃんは大喜びでした。

ブリーダーさんのお宅の写真を見て、今泉さんと「ここって牧場じゃないの? 一般家屋の広さじゃないよ」と話していたので、さほど驚きはしませんでしたが、それでも実際に着いてみると、回りには他の家が見当たらないほどの広大さです。
そして、庭に入ると、いきなり数匹のねこたちが出迎えてくれました。2〜3匹かと思ったら、次から次へやってきます。
「みんな自由にしてるんですか? 出て行ったりする心配はないの?」思わず聞いたところ、「そうね、庭からは絶対出ていかないわ。ここから出たって何もないってわかってるんじゃない?」との返事です。確かにその通り。

庭の一部にはねこ小屋というか、北欧ではよく見かける金網が張られたねこ専用の場所があり、さらに他の一角にも同様のものを作っている最中とのことでした。
とにかくたくさんのねこがいることに驚き感動した私たちは、荷物を置くのもそこそこに、まずは外にいるねこたちを見せてもらいました。
みんなでわーきゃー言いながら、次々写真を撮り、ねこたちと遊びました。

一通り外を回ると、今度は部屋の中です。
リビングにものんびり遊んでる子たちがたくさんいましたが、「子供部屋よ」と案内された部屋には、少し育った子ねこたちがどーっさりいて、またびっくり。
家の中の子たちと遊んでいたら、「また外に行ってみない?」と誘われて「まだいるの? まだ庭があるの?」といぶかりながら外に出ました。
すると、さっきとは違う方向に小さな畑があり、人参や苺などが栽培されていました。
そこから下りて行くと小さな森があり、わき水が湧いているところがあります。
なんだかちょっとしたハイキングになってしまうくらいです。
そして、このハイキングの間中一緒に回ってくれた子が数匹、また、森が好きでここで遊んでいる子が出てきたり、木に登っている子がいたり、まるで「ねこのサファリ・パーク」といった風情で、日暮れとともに下がってくる気温も気にならないほどでした。

ところで、部屋で談笑していたとき「なぜ待ち合わせの空港を間違ったのか」ということが当然話題に出ました。
「うちのパソコン、新しくしないと最近調子が悪くて...」なんて言いながら、今泉さんに出したメールを開いて見せてくれましたが、確かにそこには「フレデリクスハウンは小さな空港だから、待ち合わせ場所を決めなくてもすぐにわかる」と書いてあります。あ、でも、日付けが...!
そう、このメール、ぎりぎりまで返事を待っていた今泉さんが、すでに成田に向かっている頃送られていたのです。
待ち合わせ場所のことをとても気にして、何度も「コペンハーゲンでの待ち合わせは?」と聞き続けた今泉さんは、正しい待ち合わせの空港についての情報を読めないまま飛行機に乗らざるを得なかったのでした。ほんと、しかたなかったよね、パソコンの調子が悪かったんだしね、と小さな声でお互いに慰めあった私たちなのでした。

夕ごはんは、さっき見た畑でできた野菜たっぷりとスモークサーモン、ローストビーフでした。どのお料理もとてもおいしかったですけど、暖かく茹でられた新鮮な野菜は、何にもましてすばらしい御馳走でした。
たくさんのねこを見て、たくさんたくさんのねこ話をして、お腹も心も満ち足りた私たちは、夜遅くまたホテルまで車で送ってもらいました。
そして、この旅で初めてシャワーを使い、暖かなベッドでゆっくり眠りました。この上なく幸せな1日でした。

2001年12月25日


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