ねこのあな


― 森のねこのたわごと ―


2つのドジ判明。 (Sweden ねこ三昧珍道中記 22)

夜にはブリーダーさんが手作りのご馳走をしてくださいました。
ケーキまで焼いてくださったのです。おしゃべりをしながら、その仕上げを見ていたのですが、ここであるものを発見して私たちは絶句しました。おでんホテルで「なんだか変だけどおいしい」とよろこんで飲んだ、あの「フルーツスープ」です。
もしかして、あれって飲むものじゃなくて、ケーキに使ったりするもの?
無言で顔を見合わせる私たちをよそに、ブリーダーさんは問題の「フルーツスープ」をボールに入れ、クリームと混ぜ合わせ、スライスしたケーキの間に塗るではありませんか。

「そういえば、箱の後ろの方に、ケーキの絵とか描いてあったよね...」
「でも、飲んだって別に問題ないはずだよね...」
「だって、おいしかったよね」
「ね」
「でも、黙ってようね...」
「そうだね...」

密かに交わされたそんな会話は当然私たちの秘密です。
ケーキはとてもおいしかったし、誓って言いますが、冷やしてそのまま飲んだ「フルーツスープ」も絶対おいしかったです。負け惜しみでなく。

おいしかったのよ!!!


お世話になったブリーダーさんにお別れを言う日は、朝から沈鬱な空気が流れていました。お嬢さんたちが沈んでいたのです。
もちろん、折り鶴の折り方や簡単なひらがなを教えてあげたり、絵を描いたりしてすっかり仲良くなった私たちとの別れも、そりゃ少しは寂しかったでしょうけど、彼女たちがずっと可愛がっていた「ファティマ」ちゃんとの別れがとても辛かったのでした。気持ちがよくわかるだけに、私たちもいたたまれない気持ちです。

ともすれば涙がこぼれそうなお嬢さんたちも一緒に駅まで送ってくれました。
お手紙書くからね、写真を送るからね、と慰め、抱き合ったり、まるで今生の別れをした後、切符を買いに行くと...。

なんともまぬけなことに、私たちが乗るはずだったX2000は満席だったのです。
ストックホルムについた日に、乗る時間がはっきりしなかったし、予約のお姉さんから「座席はたくさん空いてるから大丈夫よ」と言われて予約しなかった唯一の電車でした。確かにあの時には座席はたくさん空いていたけれど、あれから何日もたち、空席がなくなってしまったのです。よく考えれば簡単に予想できたことでした。
一番高い座席ならなんとか乗れるということでしたが、あまりの高額にビビッた私たちは次の電車まで待つことにしました。
時間もかなりあり、それならもう一度家に戻ろうということになりました。
駅の売店で私たちのインタビューの載った新聞を買い、全員気の抜けたふうで車にのり、またブリーダーさんのお宅に戻りました。

でも、結局このばかばかしい顛末がよかったみたいで、お嬢さんたちも元気になり、2度目のお別れは明るく軽くできました。2度手間をおかけしたブリーダーさんご夫婦にも「最初の電車に乗れなくてよかった」と言っていただけました。怪我の功名だった...ということにしておきましょう。

2001年7月25日

有意義(?)なインタビュー。 (Sweden ねこ三昧珍道中記 23)

前回、「私たちのインタビューの載った新聞」と書いた通り、今回も地方紙からのインタビューがあり、新聞に掲載されました。
地方紙ネタとしては面白いのでしょうか。
今回もねこを抱いた写真など写され、わりと長い時間インタビューされました。

まずは「なぜねこのためにスウェーデンまで?」といういつもの質問から始まって、日本でのねこのあり方にまで話は広がりました。
取材にやってきたのは、今泉さんと同年輩くらいの元気な女性で、型どおりのインタビューだけでなく、かなり率直な質問もされました。

記者 「ここで買ったねこを日本で売るといくらくらいで売れるんですか?」
私たち 「いいえ、転売するつもりなんて全くありませんから」
記者 (記者らしく食い下がる)「でも、もし、もし転売するとしたら、いくらくらいになるの?」
私たち 「うーん、ものすごく高くしないと割にあいません。何しろ、旅費がすごくかかってるから(笑)」
記者 「確かに。(笑)じゃあ、そこまでして、ここまでねこを連れにくる価値があるんですか?」
私たち 「ええ、だって、貨物で空輸するより、一緒に客室に乗せて連れて帰りたいし。
それに、この子がどんなブリーダーさんに、どんな風に育てられているかっていうのを知ることは、とても大事なことですから。それに、ねこを手放すブリーダーにとっても、その子の新しいオーナーになる人の人となりを知ることは重要でしょう?」
記者 「なるほど」
私たち 「相手がどんな人かもよくわからないのに簡単に子ねこを渡すようなブリーダーより、ちゃんと知り合ってから渡したいと思う、ねこに愛情をたっぷり注ぐブリーダーに育てられた子がいいと思うんです」
記者 「それにしても、なぜスウェーデンなんですか?」
私たち 「私たちが愛するノルウェージャンは、もともとノルウェーのねこですから、いつもノルウェーかスウェーデンから新しい血統を入れるんです。スウェーデンにはノルウェーからよい血統のねこたちが入っていますから。今回はたまたまこちらですばらしいねこを見つけたので来たんです」

こんな風にわりとまじめな話を和やかにしてずいぶん親しくなった頃、突然すごい秘密の話でもするような表情になった記者の女性が、少し身構えて言いました。

記者 「あのー、こんなこと聞いてもいいかしら」
私たち 「?」
記者 「(思い切って)......日本人って、ねこを食べるって本当?」
私たち 「ええええー?!(びっくりした後、大爆笑)そんなことないよー、うそうそ」
記者 「(おずおずと)食べないの?」
私たち 「もちろん! みんな家族のように可愛がってるわよ。だいたい、食用ねこを買い付けにスウェーデンまで来ないわよー」
記者 「(ほっとした表情で)そうようね、そうよねー!!! ああ、よかった」
私たち 「どこでそんな話を聞いたの?」
記者 「それが、あなたたちが日本から来てるのを取材するって近所の人に言ったら、年輩の人たちから『いやだ、東洋人ってねこを食べるのよ』って言われちゃって。まさかぁって思ったけど、ちょっとドキドキしちゃったの」
私たち 「もしかしたら、昔の東洋の民族の中には食べる習慣がある民族もいたかもしれないけど、現代の日本人は絶対食べませーん! ご近所の人たちにも『食べないって』って話して安心させてあげてね(笑)」
記者 「そうするわ!(笑)」

すると、となりでインタビューを見ていたブリーダーさんが、やはり秘密を告白するように言ったのです。
「実はね、私も日本のブリーダーさんにうちの子を渡すって言ったら、同じことを言われたの」
「うっそ?!」
「ほんと。だから、少なくとも私が大事な子を譲る人は、そんな人じゃないわって言ったんだけど、みんなから心配されたのよ。あー、聞いてもらって、それにはっきり否定してもらって、私もすっきりしたわ」
「(記者に向かって)ね、ちゃんと会って話をすれば、こんな誤解もとけるでしょう?(笑)」
「まったくその通りね(大笑)」

こんな恐ろしい誤解があったなんて、私たちもたいそう驚きましたが、あちらのブリーダーさんも内心ドキドキだったかも。そういう意味でも貴重で有意義な(?)インタビューになったはずです。少なくともスンズバール地方では「日本人はねこを食べず、自分たちと同じく家族のように可愛がる」という正しい知識が広まったと思います。

スンズバールでは有名人?

で、その新聞記事ですが、なんと第一面にバーン!と写真と共に載っていました。その上、第五面にも大きな写真と記事が載っていて、びっくりしました。
予定の電車に乗れず、次の電車を待っている間にブリーダーさんに訳してもらいましたが、きちんとした記事で、インタビューの内容も正確で、とても好意的なものでした。「日本人がねこを食べない」と知った記者さんが、いい記事を書いてくれたのでしょう。よかったよかった。

2001年8月12日

2つの恐いこと。 (Sweden ねこ三昧珍道中記 24)

アーランダ空港近くのホテルに子ねこ連れで一泊して、翌日スウェーデンを発ちました。
電話がうまくかけられなかったり、間違って高い電車に乗ったりしてから、10日ほどしか経ってないのが嘘のようです。
子ねこを連れて飛行機に乗るためのエクセス・チャージの支払いをすませ、空港の売店でミネラル・ウォーターを買いました。

実は、この旅行の少し前に、私は「エコノミー・クラス症候群」の話を聞き齧っていました。今から1年以上も前の事で、まだ不明な点も多く、あまり知られていない頃の話です。どんな病気なのかもよくわからず、ただ『エコノミー・クラスの狭い座席に長時間座っていると血栓ができて突然死したりすることもある恐ろしい病気で、予防のためには水分をまめに補給して時々歩かないといけない』ことを知りました。
エコノミー・クラスの狭い座席に長時間座っているって、それは北欧貧乏旅行中の私たちのことではないか!と驚いた私は、今泉さんにも「ほんとに急に亡くなった人もいるんだって」と伝え、二人でともにおののき、行きの飛行機からミネラル・ウォーターをしっかり持ち込んだのでした。

北欧のミネラル・ウォーターはとても美味しいです。せめてきれいなボトルの絵を...。
ヨーロッパのほとんどのミネラル・ウォーターは発泡水で微妙な味があり、好き嫌いがあるようですが、私は大好きです。とりわけ好きなのがスウェーデンの「ラムローサ」というお水なのですが、日本ではなかなか買えませんから、こちらで飲むのを楽しみにしていました。
お店にはたくさんのミネラル・ウォーターが売られていて、フルーツ・フレーバーのものも何種類もありました。日本でも「ニア・ウォーター」と呼ばれる飲み物が流行りましたが、あんな感じです。ブリーダーさんのお宅の子供たちは、ジュースの変わりにフルーツ・フレーバーのお水を飲んでいました。
お酒を飲まない私たちもこれが気に入り、それぞれ小さなペットボトルを買って飛行機に乗り込んだのでした。

機内に乗り込み、座席に座ってほっとしたのも束の間、まだ座席を探す人や荷物をしまう人などでごった返す飛行機の中で、いきなり私たちの名前が呼ばれました。見ればがっちりした小柄な制服姿の女性が、座席をチェックしながら小さな拡声器を使って私たちの名前を呼んでいます。
「なんだろう?」
「なにかやらかした?」
「なにもしてないと思うけど...」
「だよね...」
怯える私たち。だって、その女性がすごく恐い顔をしてたんです。007シリーズに出てくる、KGB の恐いオバさんが、突然あなたの名前を呼び探しているところを想像して下さい。恐いでしょう?

でも、なにも悪いことをしてないのだし、出ていかなければなるまい、と意を決して立ち上がりました。回りの人たちも同じように(コワイ)と感じていたようで、彼女のもとへ行く私を(一体何をやらかしたんだ?)という興味と(何をしたにせよ気の毒に...)という同情の入り交じった表情で見ていました。

「なんでしょうか?」と尋ねる私を、彼女はコワイ顔のまま「こっちへ来い」と前方の空いているところへ先導して行きました。
こ、恐いよー。私たちが何をしたっていうの? タイにはもう行きたくないって言ったのが気にさわったの〜?(帰りもタイ経由だったので、タイ版 KGB のオバさんでした)今泉さーん、あなただけでも無事日本に子ねこを連れて帰ってね!
心の中で叫びつつ、でも表面上はあくまでも冷静に且つ憮然として、まるで不当逮捕される文化人のような面持ちで(というか、キモチで)連行(?)されたのでした。

2001年9月11日

波乱(?)の旅、終わる。 (Sweden ねこ三昧珍道中記 25)

「おまえたちはエクセス・チャージをちゃんと払ってない!」(怯える私にはこんなふうに聞こえたし、実際実に厳しい口調でした)というのが、そのコワイ女性がコワイ顔で私たちを呼び出した理由でした。
「どういうこと? ちゃんとアーランダで払ったわよ。(怒)」身に覚えがないのに万引きGメンに捕まった人のように私の語気も荒くなります。
そう、前回興奮のあまり書き忘れましたが、これはバンコック空港でのトランジット直後の話。
「アーランダに問い合わせしてちょうだい。ちゃんとレシートもあるわ、今友だちから貰ってくるから」と私。
「いや、そんなものあっても意味がない。とにかく不足しているんだ。アーランダがどう言うかなんて関係ない。きっちり払ってもらわないとならないんだよ。今ここで払いなさい。さあ払え。すぐ払え。」
「はあああ?」
「払え!」
「...。わかったわ。でも、タイ・バーツなんて持ってないわよ」
もう、何を言っても聞きそうもない、このオバさんを相手にしてもらちがあきそうもなかったし、あと少しで日本というところでトラブルを起こすのもいやだったので、取りあえず払うことにした私は、少し投げやりに言いました。
「スウェーデン・クローナかドルか円ならあるけど」
「なら、日本円で払いなさい」
「はいはい、で、いかほど?」
やはり何ごとかと少々ビクつく客室乗務員に持って来させたレート換算表を見てオバさんがはじき出した数字は驚くべきものでした。
なんと、アーランダで払った金額の倍以上ではありませんか。
んもー、とプンプンしながら今泉さんがいる自分たちの座席にお金を取りに戻りました。
怯える今泉さんにオバさんの言い分を説明したところ、とにかく今はお金を払ってここを一刻も早く飛び立とう、ということで意見は一致しました。
お金を払うと、オバさんはノルマを果たした取り立て屋のごとく満足して飛行機から降りて行きました。

落ち着いてから二人でいろいろ考えたところ、確かにアーランダで支払ったエクセス・チャージはかなり安く、向こうでの計算間違いがあったのかもしれない、ということにはなりました。
でも、それでもオバさんに要求された金額は高すぎる。ボラれたのか?
しかも、間違えがあったにせよ、それはアーランダの職員のミスで、私たちに何の落ち度もないのに、まるで罪人のようなあの扱いはひどすぎる。私たちがどっちも英語が全然わかんなくて、その上気弱だったら、もう恐くて泣いちゃうぞ(いやマジで)。これじゃまるでカツアゲじゃん!
結論:もう2度とこの航空会社は使うまい。

その後も楽しみにしていた『エリン・ブロコビッチ』の鑑賞をこれから遊びに行くとこらしい大盛り上がりのタイの団体さんに激しく邪魔され、私の決意はより堅固なものとなったのでありました。(余談ながら、わりとちゃんと見られた『セカンド・ベスト』はあまり面白くなかった...。)

成田に着いて、やれやれと飛行機を降りると、また呼び出しがありました。今度はきれいな日本人スタッフのお姉さんで、優しそうですが、油断はできません。でもまあ1度アレを体験したわけだから、と出て行くと「申し訳ございません、タイでエクセス・チャージを余分に頂き過ぎたことが判明しまして」とのことで、なんと払ったお金の半分以上を返してもらえました。やっぱりボラれてたんじゃーん。
お姉さんからは「本当にすみませんでした」と丁寧なお詫びの言葉をいただいて、この航空会社に対する気持ちもかなり和らぎましたが、やっぱり次回は違う会社にしようね、と私たちは誓いあい、それぞれの家路に着いたのでした。

おつきあい深謝!

...あれから1年と少し。だから、明日出発する北欧旅行へは別の航空会社を利用してドイツ経由で行きます。
え? また行くのかって?
そうなんです。
懲りずにまた行くんです。1年がかりで旅行記を終えたところでまた、です。我ながら呆れちゃいます。
今回は久しぶりにノルウェーにも行きます。
帰ってからの報告を楽しみにしててくださいね!
それでは、行ってきまーす!

2001年10月2日


前の分へ

戻る

次の分へ