ねこアパート

101号室

中村 たび

連載第83回 (October 15th, 2001)

かあしゃんたちはとてもがっかりしていたけど、ブリーダーのお友だちやお医者さまと相談して、今度はめるちゃんの不妊手術の日取りを決めていた。
実は、めるちゃんは前にもマティスくんのお嫁さんになったことがあり、そのときにも赤ちゃんができなかったから、それならもう赤ちゃんはあきらめて、めるちゃんの身体の負担を減らすために不妊手術をしようと考えたのだ。

手術の前の日はごはんもお水もだめなのだけど(これは私のときもノンちゃんのときもそうだった)私たちはみんなで一緒にごはんやお水を飲むから、「れんたいせきにん」で全員抜きになった。
めるちゃんの手術のことは知らされてなかったから、みんなで「おかなすいたねー」「今日はどうしたんだろうねー」とブツブツ文句を言いながら一晩過ごした。

次の日、めるちゃんはとうしゃんとかあしゃんに連れられてまた病院へ行った。お昼前に手術をして、2日間入院することになってて、その間はなんだかとても寂しかった。
「3人が2人になるだけで、こんなに寂しいんだね」とかあしゃんはメソメソしていた。
お見舞いしてもいいですよ、と言われていたけど、会いに行ってもめるちゃんを置いて帰ってこなくてはならなくて、そうするとかえってどっちも寂しくなってしまうから、とぐっと我慢をしていたから、めるちゃんの退院の日にはとうしゃんが会社を抜け出して、お昼過ぎにはもう連れて帰って来ちゃった。ほんとはかあしゃんもお迎えに行きたい、と言っていたのに、とうしゃんが我慢できずにさっさと連れて帰って来たのだった。

おなかを包帯でぐるぐる巻にされていたけど、めるちゃんはとても元気で、お家に帰れたことをよろこんでいた。
「めるちゃん、病院って恐くなかった? 嫌なヤツらはいなかった?」と聞いたら「ううん、大丈夫だったよ。赤ちゃんねこたちが何匹かいて賑やかだったけど、変な人はいなかったよ。先生も看護婦さんも優しかったし。でも、お姉ちゃんやお兄ちゃんがいなくて寂しかったー」っていうお返事だった。よかった。私は心からホッとした。

めるちゃんに赤ちゃんができなかったことで、めるちゃんの身体を心配していたとうしゃんとかあしゃんは、先生にめるちゃんのお腹の中を調べて下さい、とお願いしていたので、先生はとうしゃんにめるちゃんのお腹から取り出したものを見せてくれて、説明してくれたんだそうだ。
めるちゃんのお腹の中、赤ちゃんができるはずのところには、おできみたいなものができていて、ポコポコになってたんだって。だから、赤ちゃんができなかったんだって。
「全く症状も出ていなかったし、外からの診断ではわからなかったので、手術をして調べてみてよかったです。もともととても元気な子ですし、悪いところは取ってしまったので、これでもう心配ありませんよ」と先生に言われたんだそうだ。
かあしゃんも同じような病気を持っているから、「めるちゃん、こんなところ、かあしゃんに似なくてよかったのに」と、めるちゃんをギュッとしていた。

それまでのめるちゃんも元気な子だったけど、手術の後はもっと元気になって、身体もずっと大きく、毛もフカフカになってりっぱになってきたから、手術も入院も必要なものだったんだなあ、と思うし、よかったなあ、としみじみ思う。

連載第84回 (November 1st, 2001)

めるちゃんの手術後の抜糸も無事に終わり、剃られたおなかの毛も少しずつ伸びて来た頃、私たちは少し長い間山の家に滞在した。めるちゃんの静養のために、ととうしゃんが提案したのだった。もうその頃には、めるちゃんは元気いっぱいだったから、別に静養する必要もなさそうだったけど、手術なんて楽しくないことをした後には楽しいところに行く方がいいに決まってるし、私も山のお家は大好きだから異論はなかった。

山のお家には、たいていかあしゃんの静養のために行くことが多い。
かあしゃんはああ見えて意外とからだが弱くて、よく病気をするので、空気がかわいてきれいで静かな山の家に「なにもしない」ために行くのだ。

かあしゃんが具合悪くて眠っているときは、私たちもみんなおとなしくしている。そして、かあしゃんのそばでみんなで眠ってあげる。甘えん坊のノンちゃんもちゃんと静かに一緒にいる。それは、私がみんなに教えたのだ。そうやってそばで一緒に眠っていると、かあしゃんが目を醒ましたとき、私たちのことをすぐに見つけられてうれしそうだし、私も何かと安心だからだ。
大人になってからはめったにかあしゃんと一緒に眠らなくなった私だけど、そういうときだけは別。誰だって具合が悪いときには、誰かにそばにいてほしいものでしょう?

いつまでも赤ちゃん扱いするけど、私はもうかあしゃんよりずっと年上なのだ。
みんなの様子にもいつも気を配り、どんな微妙な変化でもちゃんと読み取ることができる。
だから、「めるちゃんの静養」から帰った頃、また何かあるな、というのはわかっていた。めるちゃんもちょっぴりわかっていたみたい。
ノンちゃんは相変わらず全然何も感じてなかったみたいだけど、こういうのってやっぱり女の勘の方が鋭いんじゃないかって思う。それとも、ノンちゃんって特別ニブチンなのかしら?

実は、週末にとうしゃんが風邪をうつされてきて、それをしっかりかあしゃんにうつしちゃったので、うちの両親は週末から順番に寝込んでいて、ちょっとつまらない。
今年の風邪はのどが痛くなるんだって。
かあしゃんはアイスクリームなんかばかりを食べては寝てる。私も心配なので、今日は短いけどこのへんにして、かあしゃんの様子を見て来ようと思う。
あああ、長女って何かと大変なのよ。

連載第85回 (November 15th, 2001)

このところ寒いけれど、みなさんはお元気?
うちのかあしゃんの風邪はどうもよくならなくて。ちょっと歳なんじゃないかしら。だって、少しよくなったからってお買い物に出たら、とたんにまたぶり返しちゃったんですもの。ほんの1時間くらいなのよ?
私のことを歳だ歳だ、病気にならないようにしないとねっていつもいうけど、それより自分のことを心配すべきなんじゃないかって思う。

さて、こないだの続きだけど。
私が「また何かあるな」って思ったのはやっぱり当ってて、夏の盛りにまた子ねこがやってきた。
それが「くるる」、くるちゃん。

くるちゃんは小さなグレーの女の子で、最初は(この子も女の子だから、めるちゃんみたいに物わかりのいい礼儀正しい子かしら)って思ったんだけど、全然違ってた。
もうとにかく元気がいい。
しょっちゅうお家の中を走り回ってるし、誰彼かまわず「あちょんで!!!」って誘う。この誘い方がまた乱暴で、こっちが寝てるのに体当たりしてきたりするもんだから、みんなびっくりするし、そりゃ怒る。なのに、断られても叱られても何があってもめげない。
あれ、こういう赤ちゃん知ってるなあ、とちょっとうんざりしながら考えたら、それはノンちゃんの赤ちゃんの頃だった。
そう、くるちゃんってノンちゃんと性格がよく似てるの。
顔はちょっと違う感じで、細面のところはノンちゃんと同じだけど、もっと涼やかな目もとで、おすまししてると美人だと思うんだけど。全然静かになんてしないから、ただのチビッコ・ギャング状態。

私はもううっとうしいから下の二人にまかすことにしたんだけど、ノンちゃんはめるちゃんが来たときとは打って変わって「こんな赤ん坊、相手にしたくないや。やっぱりめるちゃんが一番だよ」なんて言って相手にしようとしないし、頼みのめるちゃんは「何、この子?! 何勝手に甘えてくるわけ?」って怒るし。
めるちゃんの反応はちょっと意外だった。ついこないだまでお母さんの気分になってたから、てっきりくるちゃんを可愛がると思っていたのだけれど、手術の成果(?)で、前の甘えん坊・末っ子めるちゃんにすっかり戻ってしまっていたから、気分を害したんだと思う。ノンちゃんが来たときの私や、めるちゃんが来たときのノンちゃんの状態になってたわけだ。

くるちゃんの反応は、私が激しく拒否したときのノンちゃんと同じで、全く意に介してなく、めるちゃんのようなしおらしさも礼儀正しさも、微塵もなかった。
なにしろちゃんとした自己紹介もなしに、いきなり「わーい、お姉たんのちっぽって短いねー!ねこじゃらちみたーい」って言って、私のしっぽにじゃれついてきたんだから、私が腹を立てるのも当然だ。

かあしゃんととうしゃんは私たちの拒否反応にも動じなかった。激しく動き回るくるちゃんの写真がうまく撮れないとはボヤいてたけど、それだけ。

「くるちゃんとも仲良くなってね。ノンちゃん、くるちゃんはノンちゃんの兄弟の孫なんだから、ノンちゃんにとっても孫みたいなもんなんだよ。可愛がってあげなよ」
かあしゃんがそう言うのを聞いて、私は合点がいった。そうか、それじゃノンちゃんと似てるわけだ。それなら少々みんなから嫌われてたって、この子は平気だな。じゃ、放っといてしばらく様子を見よう。

すると、数日のうちにめるちゃんが豹変した。
あんなに嫌っていたのに、一転してくるちゃんの面倒を見始めたのだ。
前ならくるちゃんが「お姉たーん、だっこちて〜」と飛びついてくると「いやよ、やめて! もう、あっちへ行きなさい!」と怒ってたのに、「いいわよ、いらっしゃい」とよっかからせて、その上優しくなめたりしてあげるのだ。
くるちゃんが大喜びして、めるちゃんにべったり甘えるようになったのは言うまでもない。
賢くてわきまえためるちゃんから教育を受ければ、この暴れん坊も少しはいい子に育つだろうから(ノンちゃんに育てられたら、と考えたら頭が痛かった)これは大歓迎だった。


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