ねこアパート

101号室

中村 たび

連載第86回 (December 1st, 2001)

くるちゃんはいたずらをいっぱいする元気なだけの子かと思ったけど、ありがたいことに決してそうではなかった。
すごくいたずら好きということは、好奇心旺盛だということでもあり、好奇心さえあれば新しいことを学ぶのはたやすいことだ。チビねこのうちは、「やんちゃすぎて困る」くらいでいいのかもしれない。

くるちゃんは毎日悪いことをしては叱られ、いいことをしてはほめられ、どんどんいろんなことを学んでいった。この「叱る」方って、私たちねこが中心なんだけど。とうしゃんとかあしゃんにも、もっとビシッと言ってもらいたいのに、うちの両親は甘いので頼りにならない。

くるちゃんのいたずらは、我が家のねこたちとしてはオリジナリティーがあり、誰もしたことのないようなものがたくさんある。いや、別に誉めてるわけじゃないけど、へえ、あんないたずらもあるんだあって時々感心してしまう。
まず、カーテン登り。我が家はほとんどの部屋がカーテンでなくてブラインドなので、これは大きなカーテンがある山の家限定。ただ、てっぺんまで登る前に捕まって降ろされてるけど。
それから、水遊び。お風呂場に置いてある洗面器にはいつもお水が張ってあるんだけど(私がここでお水を飲むのが好きだから)ここにいろんなものを運んできては入れるのに凝っている。毎日おもちゃやらテーブルからこっそり持ち出した小物やらが漬けてある。たいていはくるちゃんが大好きな毛皮のねずみのおもちゃなんだけど、こないだは消しゴムが入ってたし、今朝は大きなクリップだった。かあしゃんは「今日は何かな?」なんて、ちょっと面白がってるみたいで感心しない。
キッチンのシンクに入るのも大好きで、ちょっと前まではかあしゃんがごはんを作るときにはキッチンから閉め出されていた。
それで、最近は「洗いぐまちゃん」と呼ばれている。

そんなことはないと思っていたけど、最近「たびちゃんとくるちゃんは共通点があるよ」とかあしゃんから言われるようになった。
それは諦めないこと、だそうだ。(ハハ注:違う、しつこいところ)
ノンちゃんとめるちゃんは何ごとにも諦めがいいのだけど、私は自分の主張が通るまで絶対諦めない性格だ。くるちゃんも自分がこうしたい!と思ったら止められても止められてもやろうとする。キッチンのシンクに入るときなんて、かあしゃんと根比べをしている感じだ。くるちゃんが登り、かあしゃんが降ろす。またくるちゃんが登ってかあしゃんが降ろす。めげないくるちゃんはまた登り、降ろされる。これを延々繰りかえすのだ。どちらかが根負けするまで続くのだから、見ていると面白い。くるちゃんが負ければ諦めて他の遊びをしに行くし、かあしゃんが負ければ、お仕事を中断してくるちゃんと一緒に遊ぶためにおもちゃを取りに行くことになる。

もう一つはとうしゃんが大好きなところ。
誰よりもかあしゃんが好きなノンちゃんやめるちゃんとは違い、くるちゃんはとうしゃんが大好きだ。とうしゃんの大きなお腹の上で撫でられながら眠るのが大好きなのだ。これはちょっとした問題で、私とくるちゃんはとうしゃんを挟んだライバルになっている。私は別にだっこされるのなんて好きではないから別にいいけど、お夕飯の後に「とうしゃーん」と甘えてそばに行くと、いつもくるちゃんが先にとうしゃんのそばにいて、正直言ってカチンとくることもある。
当のとうしゃんはといえば「両手に花だ」とただただ無邪気に喜んでいる。
別にどちらもひいきせずに可愛がってくれているとは思うけど、甘えん坊のくるちゃんの方がとうしゃんといることの方が絶対多いと思う。男ってやっぱり若い女の方が好きなのかしら。なんだかちょっとくやしい。

連載第87回 (December 15th, 2001)

ふう。
すっかり寒くなりましたね。
今年はなかなか炬燵を出してもらえなくて寂しく思ってたんだけど、こないだようやく新しいのが出されて、私としてもホッとしたところ。
この新しいおこた、なかなかいい感じで、みんなとても気に入っている。やっぱり冬はおこたでうたた寝っていうのが一番だ。

最近の我が家は、ねこ4、人間2の合計6人で落ち着いている。
くるちゃんはどんどん大きくなり、ちょっと見たところ私と変わらない大きさになった。いや、身長はくるちゃんの方が大きいかもしれない。体重ではまだ私が勝ってるけど。
歳の順だと「私→ノンちゃん→めるちゃん→くるちゃん」なのに、大きい順だと「ノンちゃん→めるちゃん→私→くるちゃん」になったわけだ。そのうち私が一番小さくなるんだろうなあ、みんな大きくなったなあ、と思う。そして、私も歳をとるわけだ、と今さらながらに思う。
そう、来年になれば私は16歳で、かあしゃんは「人間だったら大学受験のことを真剣に考えないとならなかったね。ねこでよかったね」と言う。
ノンちゃんは6歳、めるちゃんが3歳、くるちゃんが1歳。
こうして並べて書いてみると、我が家にねこが増えるインターバルが着実に短くなっていることがわかって、ちょっと呆れてしまう。まあ、もう慣れてしまったからいいけど。それに、何だかんだと言っても、我が家では私はやっぱり特別扱いされていると思うし。

元気者のくるちゃんと遊ぶのも楽しくなってきた。(ハハ注:くるるが『たびちゃんお姉ちゃんと遊ぶときには手加減すること、お姉ちゃんが嫌だと言えばすぐやめること』というルールを学習したおかげです)
めるちゃんは相変わらず優しいいい子で、私が一番信頼できる子だ。
ノンちゃんと私って、うちでは一番おかしな、でも姉弟らしい関係なんだそうだ。
しょっちゅう喧嘩するのに、しょっちゅう一緒にいるから。
甘えん坊のノンちゃんは、うっとうしいこともあるけど、私を頼りにしてくれる可愛い弟だ。

ノンちゃんが家に来た頃には、とうしゃんとかあしゃんと私以外は誰もいない方がいい、とかたく信じていた私だけど、家族が増えるにしたがって、楽しさもどんどん増えていき、認識を改めさせられた。1人っきりでのお留守番より、みんなで一緒にいる方が数万倍いい。1人で食べるごはんより、みんなで食べるごはんの方が数万倍おいしい。いつも誰かがそばにいるのが、こんなにいいものだとは思わなかった。

かあしゃんのところにきて15年、いろんなことがあったけど、今が一番幸せだって思う。
山の家で迷子になったとき、無事にかあしゃんたちのもとに戻れてほんとうによかった。あのとき帰って来られなかったら、ノンちゃんやめるちゃん、くるちゃんにも会えなかったし、新しい山のお家でくつろぐことも、こんなふうに自分の履歴書を綿々と綴ることもできなかった。そして、私のことを好きだと言ってくださる、遠くに住んでいるねこ好きのみなさんとも知り合いになれなかった。

あの、「ねこたま」の大きな展示部屋にいた中で、私が一番幸せなねこだと思う。いや、どのねこもみんなそう思ってるといい。ねこの幸せはねこそれぞれで、私にとってはこれがそうなのだ。
大好きな人やねこと、平々凡々とした日々を安穏と暮らすこと。
特別なことは何もなくても、暖かいお部屋でごはんを食べて眠ること。
誰かを信頼し、誰かに信頼されること。
誰かを大事に思い、誰かに大事に思われること。
誰かを心配し、誰かに心配されること。
誰かを愛し、誰かに愛されること。
素直で謙虚な気持ちと信じるなにかがあれば、辛い「今日」でも、また新しい「今日」がやってきて、やがて何もかもがうまくいくんだ、と確信している。

長いこと拙い文章を読んでくださって、ありがとうございました。
ずっと連載してきた「私の履歴書」は今の私に追いついてしまいました。だから、これで一旦連載終了。また何かみなさんにお話したい変化があれば、その後の私についてお話するつもりです。
でも、次回の連載予定日は元旦なので、恒例の写真集をおまけにお見せすることにしていますから、楽しみにしててくださいね。

それでは、何かと気ぜわしい年の瀬、お風邪などひかないようご自愛ください。そして、ねこと遊んで心の余裕を取り戻してくださいね。
それでは、またお会いしましょう!


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