ねこアパート

101号室

中村 たび


連載第62回 (December 1st, 2000)

夏のはじめにうちに来たのは、白っぽいグレーとピンクのフワフワの毛糸玉みたいなちいちゃな女の子だった。それがめるちゃん(母注記:めるとのことです)。

ノンちゃんみたいな大きな赤ちゃんを想像してた私は、めるちゃんがちっちゃくて幼いので拍子抜けしてしまった。ノンちゃんが来たときの半分くらいしかなさそうな感じで、顔もとっても子供っぽい。正直「可愛いなあ」って思っちゃった。
ノンちゃんが来たときの私の反応から、かあしゃんたちはめるちゃんをノンちゃんより小さいうちにお家に連れてくることにしたのだそうだった。その方がきっと早くみんなと仲良くなれるって思ったから。

めるちゃんはねこがどっさりいたお家から来た子らしく、ちゃんと私たちに「おねえたん、おにいたん、めるとだよ、こんにちは。あちょんでね」と挨拶してきたから、私も「私はたびよ。ちゃんとルールと節度を守って仲良くしましょうね」って答えてあげたの。
小さなめるちゃんは賢い子で、私について歩いたりそばに来てても、私が「そこまでよ」と言うとちゃんとやめることが最初からできたので、私はすぐに妹として認めてあげることにした。

でも、ノンちゃんの反応は面白かった。

最初めるちゃんが挨拶したときには「なんだよぅ、ここはぼくとお姉ちゃんと、かあたんととうたんのお家なんだから、おまえみたいなチビ、いなくていいんだよ。それに、言っとくけど、かあたんはぼくのかあたんなんだから、だっこなんてされちゃダメだい!」とプンプンしてた。ノンちゃんとしては、一緒になって怒ると思っていた私があっさりとめるちゃんを認めたため、私にも少し気を悪くしているようだったけど、さすがに私に文句を言うことはできず、むっつりしていた。

めるちゃんはめげずに、「おにいたん、おにいたん」と1日中ついてまわってたけど、ずーっと怒っていたから、あっさりした性格のめるちゃんは次の日には諦めたようで、かあしゃんと遊んだり私のそばにいる他は、一人遊びをしていた。

私は内心(ノンちゃんったら、大人気ないなあ)って思ってたんだけど、よくよく考えたら私はもっと大人気なかったわけで、(言えた義理じゃないや)と、少しばかり恥ずかしい気持ちもあって口出しするのはやめて静観することにした。あれほど傷つき怒り頑だった私の心も数日でほどけたわけだから、単純で優しいノンちゃんならそのうち仲良くなれると思ったし。
でも、ノンちゃんはかあしゃんのことがおかしなくらい好きだから、焼きもち焼いてむずかしいかな、とも思っていた。
それに、告白しちゃうと、無邪気に脳天気に私の心をかき乱したノンちゃんが、あの時の私と同じような気持ちになってるのを面白がる意地悪な気持ちもちょっぴりあった。

ところが、めるちゃんが諦めて一人遊びを始めたとたん、今度はノンちゃんがめるちゃんの後をついて歩くようになったのだ。

連載第63回 (December 15th, 2000)

それから丸1日、ノンちゃんはまるでストーカーだった。
遊んでいるめるちゃんの後をついて歩き、お尻の匂いをかぐ。めるちゃんが「なんでしゅか?」って振り向くと「う〜」ってうなる。めるちゃんは「へんなのぉ」って顔をするけど諦めてノンちゃんの好きにさせることにする。これのくり返し。

かあしゃんたちは、ノンちゃんが赤ちゃんだったときに使っていたケージをめるちゃん用にしてて、最初の日はノンちゃんがあまりにも不機嫌だったせいもあって、長い時間ここにめるちゃんを入れていたのだけど、めるちゃんはノンちゃんと違って「出ちて!みんなとあちょぶの!!」と大騒ぎしてたから、次の日からはごはんのときだけになった。

ノンちゃんったら「これはぼくのケージだ!」ってまた怒るの。ケージがあったことなんてすっかり忘れてたくせに、おかしいったらなかった。
その上、めるちゃんのごはんまで取ろうとしちゃって。
ノンちゃんが赤ちゃんのときは、ダイエットしないといけない私が赤ちゃんごはんを食べちゃいけないからって分けられてたんだけど、今回はお腹をこわしやすいノンちゃんが赤ちゃんごはんを食べるのはよくないっていう理由で分けられていたので、かあしゃんはちょっと困っていた。

でも、今回、かあしゃんは全然気にしてなくて、ノンちゃんが来たときみたいに慌てたり泣いたりしていなかった。
私がめるちゃんのことを最初から妹として認めたことで安心してたし、ノンちゃんは怒っても私ほどにはひどくなかったから。
それに、なんと言っても慣れたようだった。
「ノンタが来たときの修羅場にくらべたら、今回なんて楽勝だあ」って笑ってた。
ノンちゃんは多少機嫌が悪くても、かあしゃんがだっこすればすぐにご機嫌になる単純な子だし。

かあしゃんの勘は当たって、心ゆくまでストーカーをしたノンちゃんは、「しかたないからめるちゃんをぼくの子分にしてやる」という結論を出して、次の日から一緒に遊ぶようになった。
ずいぶん大きさの違う二人だったけど、仲良く一緒に遊ぶ姿は微笑ましかった。

そのうちめるちゃんは「子分」から「妹」に格上げされて、ノンちゃんはていねいにグルーミングしてあげるくらいになった。
私の観察によると、どうもノンちゃんの方がめるちゃんをすごーく好きみたい。ちょっとおかしいの。


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