ねこアパート

101号室

中村 たび

連載第89回 (January 1st, 2004)  

みなさん、明けましておめでとうございます。
ご無沙汰してました。2年ぶりの登場になるわけですね。

去年のお正月は、年末に突然やってきたミルくん(ミルタ)騒ぎや、そのために行かなかったおかげで遭遇せずにすんだ山の家での例年にない大雪騒ぎで(電線も電話線もぶっちぎり状態で、寒い中数日間も停電して避難したお宅まであったらしい。我が家も木が何本も折れて、後始末が大変だった)バタバタと過ごしていた。
今年のお正月は...今年は私はいつもとちょっぴり違うところにいたりする。
実は私は去年の夏の盛りに天使になって、前とは違う自由な身分になったのだ。

病院では「老衰」(ヒドイわ)と言われたし、まあ、17歳半だったわけだし、私自身はそろそろ潮時かなって思ったのだけど、かあしゃんは私が25歳、30歳まで生きて一緒にいると勝手に考えていたので、ものすごいショックを受けていた。
老衰で、どこといって特に悪いところがあるわけではなく、当然治療方法もないし、どうしようもない。形あるものは、すべからく滅するときがくるものなのだ。

まだまだ未熟な人間であるかあしゃんには、そういったことをすぐに理解できるはずもなく、夜の病院でも家でもグズグズ泣いていた。仕事を休んで飛んで来てくれたとうしゃんに慰められても諭されても泣いていた。
ノンちゃんたちは、もうすぐ私が天使になることに気づいていて、静かに私やかあしゃんのそばにおり、騒ぐこともなかった。グダグダのかあしゃんを心配している様子は、かあしゃんよりずっと大人の態度だったと思う。このへんがねこと人間のできの違いというものだろう。人間というのは、からだは大きくても、いつまでも子供のようなところがあって困ると思う。

ほんの少しの闘病(というのとは違うけれど、まあ病院へ通って点滴を打ってもらったりしたので)の間も、かあしゃんの付き添いつきながらお散歩を決行し、自分でトイレに行き、ベッド代わりのお気に入りの長椅子に登り、降り、私はきちんといつもどおりに過ごした。
そして、いつもどおりにかあしゃんに「おやすみ」を言って寝かしつけてから間もなく、私の魂は私の使い古したからだから抜け出した。

気持ちのいい、暑くなることが予測できる夏の早朝だった。
冷たく固くなった私のからだを見つけたかあしゃんは、しばらく呆然としていたけれど、とうしゃんに励まされて(とうしゃんと電話中だった)少しばかりがんばった。
私のからだを浄め、家の中と外で私の写真を撮り、私の爪や毛やひげを切ってから、私の好きだった窓辺に寝かせてくれた。
またしばらくぼうっとしたり泣いたりしていたけれど、そのうち私を抱いて外に出た。
私のお気に入りのお散歩コースをずっと辿り、私が歩いたこともなかった道、でもかあしゃんたちが昔私を探して歩いた道も歩いた。2人でおしゃべりしながら歩いた。お日さまがいっぱいだった。

それからしばらく、かあしゃんはよく泣いていたけれど、心配したお友だちが、お世話をする子がいるといいよ、忙しくして元気になりなさいなって、小さなマルくん、マルスを連れてきてくれた。
マルくんは、よく私がしていたように、かあしゃんの足にしっぽを乗せておねだりをするの。かあしゃんはそれがすごくうれしいらしい。

そうそう、私が天使になったこと、かあしゃんがずっと言わなかったことを許してやってほしい。
「誰かに言うたびに、たびの不在を再認識させられるのが悲しくていや」だったようだから。
私が何度も「違うよ、私はいなくなったんじゃないの、かあしゃんが私のことを考えていれば、変わらずそばにいるの。ね、いつも一緒にいるでしょう?」と教えてやったので、最近ようやくそれがわかってきたらしく、こうやってみなさんにお話しする気持ちになったようだ。
だから、お願いだから「お悔やみ」だけは言わないでやってほしい。
また、私のことを話したくないばかりにマルくんのことも誰にも話してなかったけど、元気に育ってるマルくんのお話もいっぱいあるようだし、近々お披露目するだろうと思う。

しばらくベソベソ泣いていたのと、気力が落ちていたのと、あれやこれやのストレスで持病が悪化したのとで、かあしゃんはちゃんとサイトの更新もしてなかったようだけれど、チビマルはじめみんなの可愛さと、年末近くからは忙しくしていたこともあって、ちょっと復活の兆しが見えてきた。私が直接面倒をみてやれなかったせいもあるので責任を感じてるから、今年はもっと元気にがんばるよう、私からもオーラとパワーを送っている。ほんと、人間ってだらしないったら。

だから、トップページのご挨拶どおり、我が家には「私・たび、ノンちゃん、めるちゃん、くるちゃん、ミルちゃん、そしてマルくん」の6人姉弟がいる。私たちはみんな仲良しで幸せに暮らしている。
今年も我が家のみんなを、どうぞよろしくお願いします!
 


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