ねこアパート

501号室

大堀ハナ丸・にゃにゃ

May 21st, 1999

ハナ丸は語る。

年の頃は7・8ヵ月、いたずらざかりのくりくり目の白地茶トラが夜の道端にいたと思いねえ。

なりは小さいがいっぱしの野良。
しかしどうやら人の手がかかった捨て猫か餌付け野良な育ちのせいで、生粋の野良を気どるにはちょっと人になれなれしすぎ。でもこれだって一つの生き方。
通りかかる「カモ」を見つけては「にゃああああうん」とお愛想振りまく。

うまくいったらお慰み・・・ときどきゴハンにありつける。こちとら生きていかなきゃならないのさ。サービス業だね。
なにせ一緒に育ったとはいえ、やんごとなき血筋が濃く出た妹猫(え?姉だっけ?母方の従姉妹で異母兄妹?わかるわけない、ずっと一緒にいただけ。)はヒトが怖くてしかたのない、馬鹿がつくほどの用心深さ。ほっとけないから代わりにゴハン貰ってきたげる。

愛のバトル。
「えいえいっ、おまえなんかっ、
おまえなんか猫キックだ!」
「むっ、何見てんのさっ、ふんっ!」


ある秋も深まった頃の夜、いつものねぐらの駐車場の前で、通りすがりのねーちゃんに摺りよってみた。反応は悪くない。
「・・・野良がこんなになつっこくていいのか?」
余計なお世話だ、ゴハンおくれ。
とりあえずゴハンはくれた。干からびたちりめんじゃこだけど。
それから毎晩くらいにお愛想振りまいたら、ゴハン用意してくれるようになった。どうやら行きずりの野良のために猫食を買ったらしい。

しかし野良の生活も楽じゃない。カモもいれば敵もいる。当面の敵は近所のおばさん達。しかもカモのねーちゃんの大家も含む。餌の食べかすとか散らかるのがやなんだと。
道端じゃ怒られるから、ってんで、ゴハン場はだんだんねーちゃんのアパートに移動。最後にはねーちゃんちの玄関まで。


ビミョーな距離感。
「い」

書くと短いが大変だったんである。妹は怖がってなかなかヒトに近寄らないし。ご近所さん達にみつからないようにドア開けて入るのを待ってるのって。
ようやくなんとか妹もねーちゃんに慣れてきて、ねーちゃんの帰り待って一緒に帰って、ゴハンもらうと泊まっていくようになった。寒かったしね。毎日目ヤニと鼻水たらしてたのだ。翌朝ねーちゃんのでかける時に追い出されるけども、通い猫さね。


しかし流石にだんだんお隣りさんの目も気になってくる。いずればれてなんか言われるんなら、と、ねーちゃん大家にかけあったけども、やっぱり却下。
まあ元々色々使い勝手に気になるところもあったアパートだということで、ねーちゃんは引っ越し先を探した。こんだ、動物飼ってもいいとこを。

幸い多少安普請だが手頃な家賃でそこそこな部屋が見つかって、引っ越ししたのが一昨年の春。
当初は完全室内飼いにしようという目論見があったらしい。却下したけどね。まあ新しい部屋から散歩に出ても、ちゃんと帰ってくるとこを見せたから今でも散歩には出る。
前とは逆に、ねーちゃんが部屋にいるとき出かけて、昼間は部屋にいる。退屈さね。ま、同居人の顔を立てて帰ってやるさ。

「おまえさん、それじゃ帰ってくるときの情けない鳴き声はなんだえ?」


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